-HARUKA TOMONAGA NON-OFFICIAL FAN CLUB-

「二度と逃がしたりするものか」
そうだ。
二度と離したりするもんか。
今まで散々人のこと巻き込んでおいて、迷惑かけ通しで、いざとなったら、こっちの気持ちはお構いなしにてめえを犠牲にして、サヨナラしちゃうような薄情な女だ。
どんなにウザがられても、一生纏わりついてやる。
こいつを人間の生活に巻き込んで、一緒に人間の時間を生き足掻いてやる。
共に笑い、共に泣き、共に歩んでやる。
俺達が愛する蒼い地球で
――――――それが俺、大十字九郎の生涯総てを賭して行なう最大最悪の復讐だ。

アルといる世界

「シスター、めしー」
「めし〜♪」
一通り愛を交し合って、腹の減った俺達はライカさんのところに飯をたかりに来ていた。

ついでに大事な用事も頼みにも来たのだ……

「わーい、何かここで食べるのが、さも当然のように振舞われているよー
……あらあらあら?まぁ九郎ちゃん。こちらの可愛らしいお嬢ちゃんはいったい?」
「 ああ……こいつ。何つーかなぁ……」
悩む間も与えずに、アルがすかさず答えた。
「うむ、九郎の所有物だ」

ピキッ……

そんな効果音を立てて、場の空気が凍りついた気がした。
おまえは、またそれを言うか……

いつもおっとり落ち着いたライカさんが顔を赤くしながらガタガタと震えている。
「あ……あうあう……あっ…ああ……っ!九郎ちゃんっ!?あ、あああああなた、も、もしかしてぇ!?」
「ええいっ!同じネタを二度も繰り返すなって言っただろ!」
「お、同じネタ!?九郎ちゃん?」
「アル!おまえも誤解しか招かない言い方はやめろ!
ライカさん!こいつは俺の!俺の……おぉ……れの……」

「…………」
「…………」
アルとライカさんの無言の視線が痛い……

「俺の?俺の何?九郎ちゃん」

下手に嘘を吐くと、アルがブチ切れてどうなることか……
やっと会えたのに「さらばだ!この大うつけ!」とか言われたらシャレになんねぇ……
ええぃ!覚悟を決めろ!漢!大十字九郎!アーカムシティの変態No.1は俺のものだ!

「お、俺の一番大事な……………………大事な……… 女だ!!

「………九郎」
頬を赤く染めて俯くアル
可愛いなぁ〜

……その横でアルよりも顔を赤くしているライカさん。
「あうあう……九郎ちゃんが、つ、ついに、ついに本性をぉっ……!」
「だから!本性って何だよ!?」

俯いていたはずのアルがニヤリと呟く。

「ロリコン」

「お前が言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ライカさんを何とか納得させ、アルが子供達と遊んでいるのを確認して、俺は本題を切り出した。
「折り入って、ライカさんに頼みがあるんだ……」
「お金なら貸さないわよ?」
「違うって!実は………………」

ライカさんのところを出て、俺達は覇道邸に来た。

「それで大十字さん?」
俺はアルの首根っこを捕まえて、姫さんに差し出す。
「ご依頼の怪事件の正体です」
「にゃ?九郎……?」

「………………」
「………………」
――――――沈黙。

「困りましたわ……もしかしてわたくし、馬鹿にされているのかしら?」
笑顔の裏で、怒りのオーラが激しく狂おしく燃え盛りまくっているご様子。怖っ。

「いや……大真面目です。こいつこれでも魔導書ですから」
「如何にも。妾こそが最高位の魔導書『アル・アジフ』!」

「………………」
「………………」
――――――沈黙。
「まあ、大変。ウィンフィールド、どうやら大十字さんは頭を強く打ったみたい。お医者様を呼んできて」
こっちも同じネタ繰り返しますか?

「フンッ」
アルが勝ち誇ったように姫さんを見下す。
「何ですか!その人を馬鹿にした笑みは!!」
「覇道瑠璃……汝はあいも変わらず貧弱な想像力しか持ち合わせておらぬようだな……」
「な、何ですってぇぇぇ!この……!!」
仰々しくため息を吐くアルに対して怒りに言葉を無くす姫さん。

「いい加減にしろって、アル……ほら、姫さんも落ち着いて?」
仲裁に入った俺に、姫さんは訝しげに眉を顰める。
コメカミの辺りで血管ががピクピクと痙攣して
……もの凄く怖い。

たじろぎながらも、俺は何とか口を開いた。
「えーと……ってなワケで、いちおー怪事件の方の原因は見つけたのですが……」
「認めると思って?」
そういうと思いました。
「九郎!小娘の我が侭に付き合う必要はない!さっさと報酬を頂いて帰るぞ!」
「どっちが我が儘ですか!」
いつものことだ。

「俺も今回は事情があるから報酬を貰らいたいんですけど……」
「……何ですか、それは?」
「ああ、実は……」

「内緒話は、ずるいぞ九郎!」

ビルを踏み倒して暴れる、破壊ロボの前でアルが呟く。
「また、此奴等と関わって居るのか?汝は……」

「出ぇぇぇたであるなぁぁぁ!大十字九郎っっっっっ!!
ここで会ったが百年目!百年経てば玉手箱!我輩ちょぴりお茶目なグランドファーザー!
そんな我輩の最高傑作『スーパーウェスト無敵ロボ28號GR+当たりが出ればもう一本』に敵は無し!
覚悟するであ…………ん?誰であるか、そのロリータ娘は?」

「妾は九郎の伴侶だ!」
大威張りに腕を組んでアルが答える。

「………………」
「………………」
ドクターウエストとエルザが小刻みに震えている。

「は、は、は、は、伴侶ぉぉぉぉ!?伴侶だとぉぉぉぉぉ!!!
だ、大十字九郎!貴様、我輩をさしおいて結婚していたのであるかぁぁぁぁぁ!?
こ、こ、こ、この変態!鬼畜ペドロフィリア!エンドレス性犯罪者がぁぁぁぁ!!」
毎度のことながら貴様が他人を変態呼ばわりするな!この○○○○!!

「ダーリンの浮気者!酷いロボ!見損なったロボ!エルザを騙したロボね!?」
「浮気じゃねぇ!騙してもいねぇ!まだ結婚はしてねぇぇぇ!!」
「妾の居ない間に機械人形に手を出しておったのか九郎!」
「出してねぇぇ!涙を溜めて上目遣いで訴えるなぁぁぁ!可愛すぎるだろッ!ど畜生!!!」
……と、馬鹿騒ぎをしてる場合じゃなかった、ウエストにも頼み事があったのだ。

「また、内緒話か!?九郎〜!!」

帰り道

「なぁ……おい、アル?」
「…………(ぷいっ)」
除け者にして内緒話をしたせいで、すっかりふてくされたアルの機嫌を取る為に、例の喫茶店に連れて行くことにした。

「ヨグ・ソトースの輪から外れた今の世界でなら、エンネアもどこかで元気に笑っているのかなぁ?」
あいつは、いつも元気だったけど……

「………………」
「……いつかまた会えるかもな」
自嘲気味に「妾は会いたくなどないが……」と笑みを浮かべ、やっと口を開いた。

「案外、此処に居たりして……な?」
俺達は喫茶店のドアを開ける。
ウェイトレスが来て俺達を席に案内する。
俺達の隣の席……

そこで俺達は出会った……
確かに居た!居たのだが……
そこに居たのは……

「マスターテリオン!?」
「大十字九郎」
「ナコト写本!?」
「アル・アジフ……」
四人の声は見事に重なる。

とんでもない奴等に出会っちまった。
優雅にお茶してやがる。

「何でお前等がこんなところに!?」

「デートだ」
「はぁ!?」
「余はエセルドレーダとデートをしておるのだが?何か不満でもあるのか大十字九郎」
「不満はねぇが(無い事もないが)!
俺が聞いてるのはそんなことじゃねぇ!!!」

「……………」

ふと、天井を見上げマスターテリオンが重々しい口調で語りだす。
「果て無い、限り無い星々の海、静かに瞬く天河を、余とエセルドレーダは二人で見つめ続けていた……
それから永劫とも感じられる時の狭間で、圧倒的で温かな光が我等を包んだ……」
ナコト写本がマスターテリオンの手を握り言葉を繋げる。

「気が付くと、マスターと私はこの場所、アーカムシティに戻って来ていた……」
何か二人だけの世界を創っているのは気のせいなのでしょうか?

「だー!理由になってねぇ!アル!マギウスになるぞ!…………アル?」
「……………」
アルはナコト写本に目を向けたまま固まっている。

「安心しろ、大十字九郎。貴公等に危害を加える気はない」
マスターテリオンは穏やかな笑みを浮かべている。
その微笑みは以前に見た狂気を含んだ笑みには程遠い、本当に穏やかな笑みだった。
(口元にケーキのクリームが付いているのが穏やかさ倍増だ)

「……信用していいのか?」
今のこいつからは闇の欠片すら感じられない……
(唇のクリームをナコト写本が指ですくい舐め取る仕種は痛々しさも倍増だ)

「どうするよ?アル」

「……………」

「おいっ!アル、さっきから何黙ってんだよ!」
「はにゃ!」
アルの身体がビクリと跳ね上がる

「どうしたんだ?」
「……………」
アルが俺を黙って見上げる……だから上目使いは止めてくれ!

「フフフッ」
エセルドレーダが笑みを浮かべて、左手を胸の前に構える。
「?」
その行為に何の意味があるのか分からないが、隣にいるアルが服の袖を掴んで擦り寄って来る……
「震えているのか?」
アルは顔を伏せたまま、首を振る。

俺はアルの怯える原因は何かと、ナコト写本に目を向けた。

ナコト写本……

アルと同じナイ乳ボディ

黒が引き立つ白い肌……

スラリと細い腕

視線を促すような左手の薬指……

光る指輪……!

「……!?そ、その指輪は……!」
「余がエセルドレーダに、渡した指輪がどうかしたのか?」
「結婚したのか!?」
アルの身体が一瞬強張る……

「お客様、他のお客様もいらっしゃりますので、もう少し静かにお願いします」
喫茶店であることも忘れて叫んでしまったせいで、ウェイトレスに注意されてしまった。
周りの客の視線が痛い……

「席を外した方が良さそうだな?大十字九郎」
「ああ、助かる」
まさか、マスターテリオンに気使われる日が来るとは……

「で、その指輪って……やっぱり?」
「うむ、余がエセルドレーダに渡した結婚指輪だ」

「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
四人の沈黙
見ると、マスターテリオンの左手の薬指にもナコト写本と同じように結婚指輪が嵌っていた
「………………」
沈黙に耐えかねて、マスターテリオンがナコト写本の髪を撫で下ろす。

「!」
アルと俺は同時に固まる。

マスターテリオンが顔を見上げたナコト写本の背に腕を回し唇を這わせる。
「ん…っ……あ……マスター?」

「な、な、な、汝等、何を!?」
アル、動揺して声が完全に上ずってるぜ?

「……!ふ……ん…っ……ぁ」
「今宵はエセルドレーダとのデートが先約、貴公等との沈黙に時間を費やすのは些か惜しいのでな」

「ん……は……んん……ん……く……」
唇の隙間から滴る涎が淫猥さを引き立たせる。
「………………」
「………………」
凄ぇ舌技……後でアルに試してやろう♪

「九郎、不埒な事など考えてはおらぬだろうな?」
「バレてる!?」

「ああっ!マ……マス……ッ!はぁぁぁ……ます、たぁ……はぁぅぅ!」
俺達、完全無視?
「………………」
「………………」
「………………アル?」
「………………ん?」
「帰ろう?」
「ああ……」

帰り道、肩を落として歩くアルの姿は、何処か儚げで今にも消えてしまいそうな、不安が心を過ぎる。
俺はアルの肩を抱き締め振り向かせ……
「アル、俺と結婚してくれ!」
通行人が白い目で横を通って行くが関係ない!こいつと離れるなんて二度と御免だ!
「く、九郎……?」
突然の告白に困惑するアル

「唐突に……汝は何を……妾は別に……あのような形式にこだわる気など……」
アルの目が困惑の色に染まる。

「結婚式なんて『形』みたいなもんかもしれねぇ……でもな?」
「?」
「それでも、みんなに祝福され認めてもらいたいじゃないか」
俺達の愛を……アルの人間としての時間を

「しかし、妾は魔導書、只の『本』……人ではないのだぞ?」
「愛してる……」

「それに、妾の見た目は……っ!」

「……嫌か?」
「そ、そんなこと!?……妾だって!」
「……してくれるか?」

「……汝はナコト写本等のことで妾に気を使っておるのではないのか?それでそんなこと……」
「そんな理由で結婚なんて口に出せるかよ!」
「だって……っ!」

「お前の気持ちを訊かせてくれ?」
「妾は……」

「アル……?」
「妾だって……ッ!」
「してくれるか?」

「妾だって、九郎と結婚したいに決まっておる!だが、こればっかりは簡単なことではないのだぞ!
妾は社会的に存在を認められてなどおらぬし!」
それをどうにかするのは、確かに難しい……だが、
「俺が気にしないなら問題無いことさ」

「それに、万年赤貧生活の汝にとって、け、結婚式などというビッグイベントを行える訳があるまいて!」
「いきなりショボイ悩みに格下げだな……」
「汝にとっては最大級の悩みであろうが!」
「否定できないのが悲しいが、今回は大丈夫だ」
「?」
「姫さんが俺をお抱え探偵として雇ってくれた。結婚費用は覇道家が全額肩代わりしてくれる」

「あの女のところで働く気か!九郎!?」
「浮気なんかしねぇよ」

「そういう問題では無い!!! (事も無いが……) 」

「というより、いつの間にそんな話が……
あー!?それで妾を除け者にしておったのだな!」
「ん、まぁな……だからな……別に思いつきなんかじゃねぇんだよ」
本当は結婚式当日にプロポーズするつもりだったけどな……

「…………」
アルが赤くなって呆けてやがる
「ア、アル?」

「……九郎」
「式は明後日、ライカさんの教会を貸してもらう」

「九郎―――――――ッ!」
目に涙を溜めてアルが抱きついてくる
俺もアルの躰を、強く抱き締めかえす

「結婚してくれるか?」
アルが俺を見上げ、優しく唇を押し付けてきた。
答えはそれで十分だった。

事務所に帰り、寝る準備をしていたアルが突然顔を上げ……
「ドクターウエストには何を頼んだのだ?」
「…………」
「?」
「…………………」
「九郎?」

「…………………………父親役」
「ほえ?」
「だから、新婦の父親代理」
「な……っ!?」

「いや、ヴァージンロードを歩くときに連れ添って歩いてくれる奴が必要だろ?
父親っぽいけど、アブドゥル・アルハザードには頼めねぇからな〜」

「よりにもよって何故、あのたわけなのだ……?」
アルが何かを耐えるように小声で呟く。
「ウエストとダンセイニのどっちに頼むか迷ったんだけどな」
ダンセイニに連れられて歩くアルの姿を想像してやめた。
あまりにも嵌まり過ぎて怖かったから……

アルの身体がぶるぶると震えるえている。
「俺の思いやりに感動でもしたのか?」
「この……」
「ん?」

「大うつけがぁぁぁぁぁ!!!」

「ぐぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁ!」
視界が飛んだ……
意識と身体も吹き飛んだ……
アブドゥル・アルハザードに、会いに逝けそうなぐらい……

結局、父親役はウィンフィールドさんに頼むことで渋々アルは納得した。

シュゴスベットの上で、俺とアルは肩を寄せ合い、夜空を見上げている。
月明かりに照らされたアルは、あまりにも神秘的で胸が高鳴っている。
こんなアルを見ていて、自制心を保てるわけのない俺(特に下半身)は……

「九郎……?」
「は、はいいィイ?」
あと少しで触れそうだったのに!!(どこに?)

「ん?何を慌てておるのだ?」
「いや、何でもないですよ?それより何だよ?」
「あぁ…………」
「?」

「……汝は妾と結婚することに迷いは無いのか?」
「ない!」
そんなの即答だ!

「だが、妾は……」
……ったくこいつは。普段は人のこと巻き込んだり、迷惑考えず我が侭突き通すくせに、肝心なときには……
まぁ、そんな所も可愛いんだけどな♪

俺は震えるアルの腰に手を回し縋り抱く。
「俺はもう、おまえの身体無しじゃ生きられねぇよ」

「…………」
「…………」

「…………ロリコン」
「ああ、そうだな」

俺は頬を赤らめ、微笑むアルに唇を重ねる。

この世界で誰よりも大切だから……
そっと優しく交わすだけの甘いキス。

お前じゃないと駄目なんだ……
気持ちを込めた、深く深く熱いキス。

共に笑い、共に泣き、共に歩んで行こう……
――――――俺、大十字九郎の生涯総てを賭して行なう最大最悪の復讐は始まったばかりだ。

FIN……

IZUMO