-HARUKA TOMONAGA NON-OFFICIAL FAN CLUB- |
其れは予兆。 其れは恐怖。 其れは困惑。 其れは不幸。
其れは戦いの知らせ。 伝承に曰く、死者の魂を攫う夜鷹、ウイップアーウィルの啼き声がミスカトニック大学に響き渡ろうとしている。 Make a PASS【FileT】
俺を覗き込む翡翠の瞳。白い貌。垂れ下がる銀の髪。
「……ぅ……ん、九郎」
「ッ……あ……ふぁ……ん」 幾度も交わすキスの刺激が俺の意識を覚醒させる。
今は朝だ……
「ああっ!」 「こんなことしている場合じゃねぇ!早く大学行かねぇと!」
ピキッ
「こ・ん・な・こ・と?」
まずい……失言だ……
「あ〜アル?……ゴメン」
「悪かったよ……」
「アル?」
「ア〜ル♪ア〜ル♪ア〜ルたん♪」
ツンツン♪
ツンツン♪
ツンツン♪
ツン……
「仕方ねぇな〜今日は大学お休み♪アルと一緒に居てやるよ!」
「やれやれ、まったく……ふぅ〜(大げさに息を吐く)アルは俺にベタ惚れだからな〜♪(馬鹿面で)」
「惚れてないか?俺のこと嫌いなのか?」
「じゃあ、大好きってことだよな?」
「アルは俺のこと嫌いか……?顔も見たくないぐらい……だから大学に行って欲しいんだな……?」
「だから!嫌いでは無いと言っておるではないか!!」
「ん?何だ〜?」
「誰…よりも……愛……し……ておる」
「な、何を!九郎!!」
「な、汝、聞こえておるだろ!」
「こ、このうつけが!汝など、大学の廊下でバケツを持って立たされて来い!」
「ほれ!早く行けぇ!!」
「本当は休んで、傍に居て欲しいくせに〜♪」
「馬鹿なことを言ってないで、早く大学に行け!!」
「――――――――ッ!」 「この大うつけがぁぁぁぁぁ!」 迸る魔力の渦……
お約束通り、飛ばされた……
はぁ〜
「大十字先輩!」
【アセナス・ウェイト】
「ところでアセナス、その先輩っての止めてくれないか?」
「…………」
「今の隠秘学科の学徒で先輩より優秀な人間なんて居ませんよ〜♪」
当時の俺は自分に自惚れていた。
俺は隠秘学科の学徒の中では憧れの的だったのだろう……(いや、マジで)
アセナスも大学では人気があった。
「でも今の俺は、お前と同じ学年だろ……?」
アセナスとは、俺が大学を去った時に別れた。
また、やってしまった…… 「なっ!?にゃぁあっ!違うぞ!ダンセイニ!妾は別に外でもベタベタしたいとかそんなのではない!外で妾とベタベタすれば九郎の迷惑になることぐらい分かっておる!それでも……!ええぃ!違うというに!妾の見た目など九郎は気にはせんが……周りの人間は!と違う!九郎はロリコンで……って、これも違ぁう!!あぁ!妾だって一つのジュースを二人で飲んだり、腕を組んでお揃いの服で街を歩いて……」
「てけり・り」
「てけり・り」
「ふぅ……大丈夫だ……」
「いや、今朝のことだ……」
「汝に言われずとも、分かってはおる……だが」
「九郎を前にすると、どうしても素直になれんのだ!」
「そうだ!妾は九郎のことを、この世界で唯一に愛しておる!……だからこそ」
「てけり・り」 「だが……どうやって……」
「てけり・り」
「てけり・り?」
「行ってくる」
一時間目の講義はピースリィ教授の魔術実技だった。
今日の講義は程度の低い火炎系の魔導書で魔術を行なうというもの。
何故か俺の横にいるアセナスは、炎が揺らいでいるものの召喚・固定には成功している。
「それだけ出来れば上等だろ?」
「先輩は復帰したばかりなのに、さすがです〜♪」
「過度の謙遜は厭味ですよ〜?あははははは♪」
俺達が喋っているのに気付いて教授が注意する。
「はい、スイマセン」 俺も自分の魔導書を見つめる。
…………駄目だ。
今朝のこと、まだ怒ってるよな……
うぅ……晩飯はライカさんのところで食べさせてもらおう……
バジュウゥゥゥ!!!
俺達の前にいる男の召喚した焔が、突然炎上し暴走をはじめる。
この実習室は特別な部屋で、魔術の暴走などに備えて、魔力を軽減する魔術式が部屋に書き巡らされている。 パンッ!パンッ!
ピースリィ教授が手を叩きながら、パニックになっている学生に近づいて行く。
「落ち着いて、制御すれば焔は消えます!」
「なっ!?炎が勝手に!?」
「これは!?どういう……?」 ドジュウゥゥゥ!!!
「俺の本からも火が!?」 ドジュウゥゥゥ!!!
「僕達の本がぁ!」 ひとつの魔導書を中心に、焔が自動召喚し暴走を始める。
糸で繋がっているかのように、次々と燃え上がっていく!
「大十字先輩ッッ!」
ピースリィ教授が魔導書を一冊、一冊、術式解除していく。
総ての魔導書と契約し焔の召喚を強制解除する。
【ミスカトニック大学炎上・爆発!原因は隠秘学科!?大学内でも秘密裏にされていた魔の巣窟!】
………… …………………… ………………………………
「……………」
「だ、大十字君!貴方は何処で、それほどまでの魔術理論を!?」 さて、どうやって事情を説明したものか――――――
「先生!火傷している生徒がいます!」 「なっ……早く医務室へ!」
「先生〜!手伝って下さい!」
教授は実習室のドアノブを掴んで振り返り、俺を鋭く睨みつける。
「はい」
「やっぱり、先輩は『先輩』です〜!改めて尊敬しちゃいました〜♪」
「…………ありがとう」
二限目は講義を取っていない。
ミスカトニック大学の敷地はバカみたいに広い。 家に帰ってアルに会いてぇ……
四限目と五限目の講義は捨てて今日は帰るか……?
「大十字先輩!何処に行くんですか〜?」
「さっきは凄かったですね〜♪格好良すぎですよ〜!」
「あんなこと出来るなんて〜♪私にも秘密にするんだもん!意地悪だな〜♪」
「先輩と私の仲じゃないですか〜♪」
「えっ……」
「そ、そうですよね!私に言う必要なんて無いですよね〜♪」
「……………」 「俺はお前とは別れているよな?」
「へ?あ、そうですよ?」
「じゃあ、俺に付き纏うのは何でだ?」 「俺には……」
「私が『まだ』大十字先輩が好きだからですよ」
「……私は」
「今も大十字先輩が好き……もう一度、私と付き合ってくれませんか?」
アセナスの言葉には強い力を感じた…… 頭に血が溜まっていく…… それでも……
「……俺は」 言葉を続けるより早くアセナスの腕が俺の腰に回る。 「!」
そのまま目を瞑ったアセナスが唇を上向ける……
「ア、アセナス……?」 だが……俺には……
アセナスを俺の身体から引き離そうとしていた…… だが、俺が見たのはアセナスの傷ついた顔じゃ無かった。 「な、何でお前がここに……?」
声が上擦っている。 “そいつ”が『今』此処に居ることなんて……
「九郎……」
「ん?誰、あの子供?先輩の知り合いですか?」
「九郎……」
「九郎って、大十字先輩のファーストネームですよね?……きゃ!」
「ちょっと!大十字先輩〜!」 俺が一歩足を出すと“そいつ”の足も一歩後ろに退いた。
ジリッ
ジリッ
ジリッ
「話を聞いてくれ……?」
肩がビクッと震えたと思うと“そいつ”は急に踵を返し走り出す!? 「!?」
“そいつ”の瞳が光を反射する。 走り出した俺は心の底から“そいつ”の名前を叫ぶ! 「アル―――――――――――ッ!」
学園中に響き渡っても構わない! ……To be continued |